2話
「それでは、お先です♪」
「は?」
「あ?」
岩隠れの里のすぐ近くの村に着いた瞬間、の声が聞こえたと思ったらもうそこに彼女の姿がなかった。
* * *
岩隠れの里の近くと言うから、岩隠れの忍が巻物を盗んだのかと思ったら、そうではなく。
訳が分からなく、じーちゃんに詳しく聞いてみると、里の近く村があり、その村自体が忍者に憧れていて忍の真似事をしているらしい?
聞いた瞬間、やる気がなくなった。
二人もそうらしく呆れた顔をしてじーちゃんを見ていた。
それなら何も私達じゃなくても言いんじゃないかと、聞いてみると。
「一般人に盗まれたと、他の者達に知られたくない」
……じじい、ぶっ殺すぞ?
本気で二人に任せようかと思いました。
* * *
「……はぁ」
先ほどのことを思い出し、憂鬱になりながら私は二人に声をかける。
「……やっぱ、君達なにもしなくていいですよ?」
「……はあ? なんでだよ!」
なんで、そんな張り切ってんだよ……。
「……それはですね……」
「……どうせ、オレらが足でまといって言うんだろ」
私が言う前に蒼鹿さんが先に言った。
「……あっ……当たりです♪ よく分かりましたね?」
少し馬鹿にした感じに言う。
「……そりゃ、何回も言われてればな」
ああ、演技か。良かった。なんか、うん……。
「……またそれかよ! だから、オレらは弱くねぇって言ってんだろ!!」
「……だからぁ。そう言ってる奴ほど死ぬんですよ」
「……はぁ」
私は江孤さんと言い争いを続けていると、後ろから蒼鹿さんの溜息が聞こえてきた。
『…………』
その音に私達は沈黙し、そして誰からともなく溜息を吐いた。
……誰もやりたくないよね。こんな任務……。
* * *
このあと、誰も話さず、黙々と進んで行くと、目的地が見えてきた。
村に着き、周りを見てみると、まだ入口だというのに、敵の忍?が三人を遠くから見ていた。
忍マニアみたいなもんでしょ? 一般人がよくやるわ。
まぁいいや。関係ない。
お面の下でニッと笑うと、今までダラけていたの雰囲気が変わる。
……後悔すればいい。
「……それでは、お先です♪」
「は?」
「あ?」
二人が振り返ると、そこにの姿は既になかった。
「あってめぇ!」
江狐の声が空しく響く。
ムグッ!
江狐の声があまりにも大きくて、蒼鹿が慌てて手で口を塞いだのだ。
「バカ! 声がでけぇよ! 敵に見つかったどーすんだよ!」
「あっ、わりぃ」
「それにしてもアイツ、消えんの早いな。もういねぇーし」
「オレ、アイツのこと追いかけるから。蒼鹿、この辺任した!」
「……ちっ。めんどくせぇ……」
「……マジでな」
* * *
一方、私はというと、二人から離れられて浮かれていた。
やっと、二人から離れられたーーっ!! 巻物も奪い返したし♪ あとは……。
「……というわけで、あなた達。さっさと死んで下さい♪」
『!!』
ザッ!!
今まで隠れていた敵が続々と出てくる。
「いつから我々のことに気がついていた?」
敵のリーダーっぽい男が話しかけてきた。
「えー? 初めからですかね?」
語尾にハートが付いていそうなほど、にこやかに答える。
お面で見えないことを良いことに、はニヤニヤといやらしく笑う。
……これだと、どちらが悪人か分からない。
「なっ!!」
敵さんが驚き、声を上げていた。……本気で気づいてなかったの?
「……クス。止めた方がいいですよ?
そんなんで、よく忍の真似事を続けてられますよね。……恥ずかしい奴ら」
これなら江狐さん達の方が強いよなぁ。……あはっ。さすがに失礼か。
「なんだとー!!お前らやれ!」
「……はぁ。退屈させないで下さいね?」
……暫くして、リーダー格っぽい男だけが残った。
この人だけ残っちゃったなぁ。
この人クナイ、デタラメに投げるから、避けるのめんどくさいんだよなぁ。しかもタフだし……。
「さっきまでの元気は、どうした? もう、お手上げか?」
「あはは、そうなんですよ。私、あなたと違ってタフじゃないんです」
「ふんっ。口先だけはまだ健在のようだな。まあ、いい。……さっさと死ね!!」
そう言って男はに向かって、クナイを投げる。
ヒュンッ!!
風の切る音がした。
あんなの避けられるに決まってんじゃん。
私はそれを当たり前のように避けようとしたら、足に激痛が走る。
「えっ?」
足が動かない。
足を見ると、かすり傷が出来ていた。男のクナイがまぐれで当たったのであろう。
……傷自体は大したことない。ってことは、クナイに即効性の毒が塗られてたのか。
うわぁ……マジで? 笑うしかないな。
油断大敵
まさに今のにピッタリの言葉だった。
男がクナイを持って、私の方に向かって来る。
あははっ。毒のせいか、ボーッとしてきた。
……死ぬのかな?
こんな忍でもない奴に殺されるのはシャクだけど……。
まぁいいや。
それより、どうせ死ぬなら、じゃなくて【 】で死にたかったなぁ。
男を見ると、もうすぐそこまで来ていた。
私は静かに目を閉じる。
……もうすぐ会えるかな?【 】。
* * *
ガキンッ!!
ザッ!!
「……?」
いつまで経っても痛みが来ない。
それに、あの音は?
私は不思議に思い目を開けると、そこには倒れた敵と……江孤さんがいた。
「……貸しは返したからな。たくっ。なに敵にやられそうになってんだよ」
「……なんで……?」
「は?」
……パタン……
毒が身体中に回り、限界に達したのか、私の意識はそこで途切れた。
「おい!!」
* * *
「……ぅ……ん……」
目が覚めると、地面の上で寝ていた。
「……あれ……?」
「ん? おい、蒼鹿! 目ぇ覚ましたぞ!」
「あーやっと、起きたか」
江狐と蒼鹿が心配そうに顔を覗き込んでいた。
「……此処どこ?」
「村の近く」
私はキョロキョロ周りを見てから、倒れる前のことを思い出した。
「…………」
「大丈夫か?」
「解毒剤は飲ましたけど、まだ抜け切れてないから無理すんよ」
「………………か……?」
『は?』
が何と言ったか聞こえず、二人は聞き返す。
「……なんで助けたんですか?」
「オレが来なかったら、お前死んでたぞ」
「放っておいて欲しかったです」
『!?』
「死んでも良かったっつーのかよ!」
その言葉に江狐は切れ、の胸倉を掴む。
「余計なお世話なんですよ! 誰が助けてくれって頼みました!?」
「……んだと!!」
「二人とも止めろ!」
ヤバイと思った蒼鹿が止めに入る。
ポタッ……
の目から涙が出てくる。
『!!』
「おい……?」
江孤は胸倉から手を離し、涙に戸惑いながら声をかける。
「……なんで? なんで、あいつらに似てるの……?」
誰に言ったという訳でなく、が呟く。
「は?」
……やっと……。やっと忘れられたと思ってたのに……。
「……私は……。私はあんたらみたいな奴らが、一番、大嫌いっ!!」
「……誰と似てるか知らねぇけどな……。
オレらをそいつらと一緒にすんじゃねぇよ!!
オレが言えることじゃねぇけど、他人をずっと信用しなくて楽しいか?」
……楽しいわけないじゃん……。
「……なんで他人を信用しなくなったんだ?」
「それ、オレも気になってた」
今まで二人の会話を黙って聞いていた、蒼鹿が言った。
「…………」
二人にそう言われ、私は考える。
この人達に言っても大丈夫?
分からない……。
まぁいいや。
言っても、言わなくても大差ないから。
一度目を閉じる。
……そして、目を開けると、二人にぽつり、ぽつり話し始めた。数年前の出来事を……。
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