賢者の石 0話
「いいかい? そのピアスを外してはいけないよ。
ずっと着けてて。 お前のこと守ってくれるから」
深紅の石が付いてるだけのシンプルな物だけど、とても綺麗なピアス。
それに亡くなった父との大事な思い出の品。
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私は逃げていた。
逃げて、逃げて、逃げて誰も居ない空き部屋に飛び込んだ。
とてつもない恐怖から。あれは恐ろしい敵に回したらいけない。
それをなんとか振り切って逃げたは良いけど……ここ何処?
呼吸を整えて周りを見渡してみても私の知ってる部屋ではなかった。
「参ったなぁ」
部屋に私の声が響くが気にする余裕はない。
まだ夜じゃないから時間的には平気だけど、1年の私的にはあんまり良い状況じゃないかも。
「寮に帰れる自信がないんだけど」
「なにしてるの?」
「うぉっ!?」
私以外誰もいない部屋なのに後ろから急に声がした。
驚いて振り返ると、そこには格好いいより綺麗なお兄さんがいた。
スネイプ先生とは違い、サラサラした黒い髪に深紅の瞳。
深紅の瞳なんて珍しいから思わず見惚れてしまった。見続けたら吸い込まれるのかな?
そんなことを考えてたら「ありがと?」ってなんとも言えないような笑みを浮かべたお兄さんにお礼を言われた。
「ん?」
「声出てたよ」
「ちょっ」
自分恥ずかしっ!!
「あは、あはは……お兄さんはお兄さんですか!?」
「は?」
動揺して苦し紛れに出た言葉にポカンとした表情で私を見るお兄さん。
自分、どんどんドツボに嵌まってる気がする。
「生物学上、男だよ」
苦笑してるけど馬鹿な質問にちゃんと答えてくれるお兄さん。
その優しさが嬉しくて、つい調子に乗ってしまった。多分これが間違っていたのだと思う。
「ねぇ、君はなにしてたの?」
「全力ダッシュで現実逃避したら迷子になりました」
「…………」
お兄さん黙っちゃった。てか可哀想なモノを見るような目でみられてるよ私。だよね、自分でもヤバいと思う。
「……ねぇねぇ。なんで透けてるの?」
「…………内緒」
その間は何? まぁゴーストなの隠したいんだね、多分。じゃあ、気になってたことをもう一つ。
「お兄さん、怒ってる?」
ピクリと小さく反応して俯いてしまったお兄さん。それからそれから……なんだか空気が重くなってるような気がするよ?
「……ふぅん」
ゆっくり近づいてくるお兄さんは、私の目の前でピタリとその歩みを止めた。なんだろ?と首を傾げていると。
「馬鹿なお嬢さんかと思ったけどそうでもないんだね?」
その言葉と同時にきた頬への痛み。
「いひゃい!?」
そして怖い。
さっきと変わらない優しい笑みを浮かべながら黒いオーラ撒き散らして私の頬を引っ張り始めたお兄さん。
優しいお兄さんは何処!? ……いや、綺麗な人が優しいなんて迷信なんだ!
ってか、なんで触れるの!? ゴースト癖にゴーストの癖に!!
「……なんか失礼なこと考えてない?」
「ひにょへい!!」
「君、名前は?」
そう言って引っ張っていた頬から手を離したお兄さん。
「…………・」
「そ、僕はトム・リドル。トムって呼んだら……」
「………」
目が殺すって言ってた!!
「よろしくね、」
「………」
……はは、よろしくしたくない。
全力で逃げ切ったその先にレポートよりハーマイオニーよりも怖いモノがありました。
なんだろう? 今日の私は厄日に違いない。
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2014.1.5