願いは一つ







願いは一つ







「わ、ちょっ、ど、退いて!」

「え?」



ドンッと何かを突き飛ばした感触と、バシャンと上がった水飛沫。



「「…………」」

「……よ、良かったぁ! ちょっとかかったけど、私に目立った被害はないみたい? 真冬に湖ダイブは嫌だしね〜」

「…………ねぇ?」



恨みがましそうに私を見てくるのはリドルさんですか、でしたか。……さぁ、どうしよう?

後退する道はなさそうだ。







*







「きゃー水も滴る良い男! 普段よりも全然素敵よ?」

「死ね」



一段と辛辣で。

リドルを救出してから数十分、私達は談話室……だと煩いので必要の部屋に来ていた。

「寒い」と暖炉の前を占拠しながら魔法で服を乾かすリドルは小姑の如くチクチクと私に嫌味を言い続けていた。



「なんなの君? 僕に恨みでもあるわけ?」

「まさか! 恨んでたらもっと早く実行に移してるよ。

確かに君に嫌がらせ紛いのことしてるよ? 楽しいからね」

「で?」

「リドルの背中があったからつい、ドンッ」

「…………そう」



……わぁ、笑ってるのに目が笑ってないよ?あれ?その私に向けられてる棒切れはなぁに?……って、おい。



「ちょっ! 杖は止めよ、杖は!」

「口には気を付けようか?」

「冗談! 今回は素で違う、わざとじゃない!!」

「わざとじゃないなら何?」



未だ濡れて乾いていない前髪を鬱陶し気にかき上げるリドル。

お〜格好いい人がやるとなんでも似合うね、と関係ないこと考えてたら呪文唱えられた。



「躓いた」

「は? 有り得ないでしょ」

「決めつけよくない。実際いるよ、ここに」

「はっ、よく平らな道で躓けるね。、足腰大丈夫?」



鼻で笑ってる時点で心配してないよね。馬鹿にしてるよね。



「……はぁ、まだ服乾かないんだけど? 風邪引いたらどうしてくれるの?」

「看病してあげる♪」

「殺す気?」

「リドルなら死なないよ〜図太そうだもん」



ポロッと本音が漏らすと、間髪入れずに「アグアメンティ」と聞こえてきて、頭上から大量の水が降ってきた。



「!?」

「お代わりはどう?」



涼しい顔して言ってのけるリドルに思わず笑っちゃう。

水って冷たいね。

いやぁ、わざとじゃないけど突き飛ばしたわけじゃないけど反省するよ。

と、頭で解っているが心は別。



「……す……」

「うん?」



私は静かにリドルが唱えた同じ呪文を呟いた。

願いは一つ。

リドルがもっとずぶ濡れになることを祈って。





*





2014.02.01