なんで?







なんで?










シーンと静寂に包まれた談話室。
クリスマス休暇で普段以上に誰もいないその場は落ち着いて本を読むには最適だった。



「リドルー!」



この声を聞くまでは。



「寝な」

「それリドルにだけは言われたくないよ?」

「僕は良いんだよ」

「意味わかんないから」



良いよ、分かんなくて。
それよりの存在忘れてた。最近絡んで来ないから家に帰ったのかと……あ、そういえばクリスマス居たっけ? 少し混乱してて頭が上手く働かない。





現在の時刻23時半。





「ねぇ」

「ん?」



自分の正面から聞こえる不満そうな声。一応、反応こそするが、目線は読んでいた本に向けたまま。


「ナメクジとゴキブリどっちがいい?」

「…………」



もう逃げられないらしい。
ハァーと溜め息を吐き渋々顔を上げるとニコリと笑う。そんな彼女に僕は思わず顔をしかめた。
いっそいつもの憎たらしい笑みの方が良かった。



「……で、なんの話?」

「聞いてなかったの?」

「全く」



内心、べぇと舌を出したのは内緒。



「少しは聞こうよ!」

「僕、今なにしてる?」

「本読んでる」

「それで聞けと?」

「うん♪」



もう嫌、コイツ。
始めはすぐ部屋に帰ると思ったのに、中々帰らないし。



「リドルだったらチョロいでしょ?」

「まぁね」

「だったら良いじゃん!」

「嫌だ。大体さ、なんで毎回本を読んでるときに話しかけに来るわけ?」

「リドルが本を読んでるときが唯一、人がいないから?」



……はぁ。
もう何度目か分からない溜息を吐いて諦めて本をパタリと閉じると、が小さくガッツポーズをしていたのが見えた。



「今日はなに?」

「今年も色々あったねー。リドルくんと仲良くしたり、仲良くしたりー」

「は?」



話が見えない。見えない……けど、納得いかない。



「ナメクジ頭上から大量に落とされたり、池に落とされたり、薬、盛られたり、本ぶん投げられたりが? あーそうそう唇奪われたりもあったよね?」

「……な……っ」



わざとらしくそう言って唇を撫で、嫌いらしい笑みを浮かべると、少し赤くなったが頬を引きつらせていた。



あれ?意外。
……へぇ、少し楽しくなってきたかも。



「忘れちゃった?」



隣に座っていたがそーっと逃げようとしたのが見え、その腕を軽く掴み自分の方に引っ張ると、バランスを崩したが僕の胸に倒れ込んできた。



「ちょっ?!」



色気も可愛げもない声を上げて。


「僕、初めてだったんだけど?」



腰をグッと抱き耳元で言うとピクッと反応する。下を向いてて顔が見えないのは残念だけど、その反応が楽しくて内心、クスクス笑った。


……のことだから絶対暇過ぎてとか頭回らないからだよね。
それの意味も分からないけど、そのあと本ぶん投げられた意味も分からないし。
そんなことを考えていたらがキッと僕を睨んでいた。


「ふ、顔真っ赤」



未だに腕と腰はそのままなので必然的に上目で遣いになってるし、全然、怖くないから。



「奪ったのはリドルじゃん!」

「奪われたようなもんだよ。僕は挑発に乗っただけ」

「リドルが乗らなきゃ良いじゃん!」

「理不尽なこと言わないでくれる?」

「……っ、リドルが初めてなんて嘘だ!」

「嘘だよ?」



シレっと言うとが口を開けパクパクさせていた。



「そんな顔してると奪うよ?
今日、僕誕生日だからプレゼント代わりにそれも良いかもね」



ニィと意地悪く笑ってから掴んでいた腕を離し、今度は頬を掴むと自分の顔を徐々に近付けていく。


「っ!? りおう、はにゃしぇ!!」



慌てたが暴れ出すが無視して進め、少しでも動いたら触れるってところでピタリと止めた。



「…………変な顔」



そう呟き、頬と腰を解放すると危機一髪だったという感じで、直ぐに僕の側から離れた。



「覚えてろリドル」

「とりあえず、その顔の赤みがひいてから言おうか」

「……このやろう……って! 今、何分!?」

「ん?」



少し焦ったようなに不思議に思いながら腕時計を確認すると。



23時58分だった。



あ、もう年明けるじゃん。



「23時58分だけど?」

「!」



先ほど以上に慌てた様子で自分のバック漁り出す
なにしてんの?と聞こうとしたら、バンッという衝撃ともに顔に走った痛み。



「…………っ?!!」



痛いし、驚いたりで声が出ない。手で顔を押さえながら当たった物を確認すると、そこには包装された……本?



「……ナイス顔面キャッチ?」

「…………」



そろそろ本は投げるもんじゃないって教えた方が良いみたいだね。


「……ちゃん。ちょっとこっちに来て?」



静かにそう言うとは降参と両手を上げた。



「……その前にリドル。はっぴーばーすでー」

「は?」

「それとごめん。ミスった」



急激に怒りが冷めていく。
僕が言う前から知ってたの?
色々と聞き気もするが、言葉が出てこない。



「……もう終わりだけど?」

「あえてね〜。
あっ、年明けた? はっぴーにゅーいやー、リドル」

「…………ありがと」

「いーえ?」




……で、のんびりしてるとこ悪いけど。




。そこでのんびりしてるけど、僕許したつもりないけど?」

「なにが?」

「本、ぶん投げたこと決まってるでしょ」

「!?」




*




リドル誕生日と年明けの話。


2013.12.31