30秒






いつも僕を見つけては絡んでくる
僕はアイツが解らない。
理解したいとも思わないけど。


……もし、過去の自分に助言出来るなら、一つだけ。
速やかにから離れろ、と言ってやりたい。



アイツもそうしてたように。







30秒






「僕はトム・リドル。君と組むのは初めてだね、名前は?」



授業でペアになったスリザリンカラーのネクタイをした女の子。

こんな子いたかなぁと少し首を傾げたが、それより気になったのが、その子は何故か僕を見て頬は引きつらせていたこと。



「…………
「ん? ああ、よろしくね」



すごく小さな声。大人しい子なんだな、とあっさり納得し普段と同じようにニッコリ笑って挨拶したらは、短く。



「ヒッ」



……悲鳴を上げた。


何故?


この先、が僕に対して怯えた態度をとったのはこのときだけ。
それがどれだけ貴重だったと僕が気付くのはもう少し後のこと。



「? どうしたの?」
「……無理」
? ……えっ?」



ぐいっと腕を引っ張られ、気付いたときには既に僕はに全力で引きずられた。


この間、30秒。


「先生ー、リドル君が具合悪いそうなので医務室に行ってきます!!」
「は、ちょっ!?」
「ちょっと黙っとけ」



蚊が鳴くような小さな声。
僕と話したときの大人しい女の子は、30秒で跡形もなく消え去った。



意味も分からず引きずられ続け、当然連れ込まれたのは医務室なのではなく空き部屋だった。



「……わぁ、大胆」



襲われちゃうかも。と呟けば、パシン、と腕を叩かれた。



「叩くよ?」



もう叩いてるし。
苦笑しながら降参とばかりに両手を挙げた。そしてに尋ねた。


「で、なにかな?」
「とりあえず、その気持ち悪い笑顔で止めて」
「ひどいなー」
「酷くないよ? 見てて吐きたくなる」
「…………」



ピシッと笑顔が固まったのが自分でも分かった。
吐くって普通にひどいよね?
ホグワーツに入る前も言われたことないし。
こんなこと言ってくる奴に笑みを浮かべ続けるのが馬鹿らしくなり早々に止めた。



「……てかさー、君なに?
好き勝手に言ってくれるけど、この部屋に入った段階で半分も出してないつもりだけど?」
「知ってる。わざと♪」



そう言っては初めてて笑った。にやにやと憎たらしくだったが。



「…………」
「まさかリドルとペアになる日が来るとは思わなかった。ったく最悪」



それは教師に言ってくれ。
そして出来るなら僕だって関わりたくなかったし、大人しいと一瞬でも思った自分を末梢したい。



「……それより寮で君のこと見掛けたことないんだけど?」

「そりゃ隠れてたからね」

「なんで?」

「皆に優しくて、どんなときでも笑顔なんて胡散臭くて関わりたくないよ?」

「即謝れ、そういう連中に」

「リドルだからに決まってるじゃん」



……この女。



「自分に害がないならそれで良いの。駆逐出来るならいくらでもいうけどね」



そうケラケラ笑うの後ろに悪魔が見えた気がした。



「……最悪」

「誉め言葉?」

「…………」



苦虫を噛み潰すとはこういうことを言うのか。思わずチッと舌打ちをした僕を見て、



「……あれ?」

「?」



思いの外キョトンとした表情に、僕首を傾げた。



「これは楽しみ」



まるで新しい玩具を与えられた子供みたいに目を輝かせている彼女に僕は不安が過った。






その日を境に、なぜかは僕に絡んで来るようになった。
始めはあしらっていたのだか報復されてからは、適当にでも付き合うことにした。



そんなある日。
いつもの如く絡みに来たが急に黙った。本当に急に。
明日は雨が降るのかな、それとも変な物食べたか。そんなどうでも良いことを考えてたら、からジーッと視線を感じたので、なに?と聞くと。



「……リドルってさぁ」

「ん?」

「なんだかんだいって優しいよね」

「は?」



小声で中身最悪なのに変なのー、と言っているのはこの際聞き流してやる。



「変な物食べた?」

「なわけない」



はニィと笑って、それだけ言うと僕への興味が失せたのかどこかに走って行った。



「…………」



が走って行った方を見ながらはぁ、と溜息を吐いた。



「……ったく、ホント……」




僕とは友達じゃない。
これはハッキリと言えること。


……なのに。


他人からそうは見えないらしくて、そんな奴ら見かける度に本気で潰したくなる。


はリドルこわーい、物騒。とかほざくだろうが、多分、その目は笑っていないと思う。



……ただ。



嫌いだってほど仲が悪いって訳でもない。




*




2013.12.27