突き落とすのは止めよかな
「あづい」
頭がボーッとして正常に機能してくれないし、涙で視界がボヤけるのは気のせいだと思いたい。
普段無駄に笑顔を振り撒く優等生面したアイツが、邪悪な笑みを私に向けてる気がするよ。
「……リドル?」
「どうしたの、?」
私は別に乙女チックな思考の持ち主じゃない。
そんなことでアイツの名前を呼んだんじゃない。断じて違う。言い切れる……ただ。
「……ふ」
「笑うな」
「無理かな」
私のグッタリした様子を楽しくて、楽しくて堪らない、という風に笑うリドルが不愉快なだけ。
「……可笑しいでしょ、ズルいから。同じくらい水に濡れた筈なのに私だけ風邪引くって」
どんな嫌がらせ?
リドルを睨み付ける気力も無くて、大人しく天井を見つめていると咳が出た。
「ざまぁ。日頃の行いだね」
「……うざっ」
「仮にも女子が口が悪いってどうなの?」
「気にしないで? 私の中でリドルは男子じゃないから問題ないよ」
その言葉にムッとするでもなく、余裕そうに微笑むリドルがなんだか憎らしい。
そうそう、私は現在医務室にいます。
原因は……まぁ、あれですよ。
真冬の水掛け合いっこが原因で風邪引きました。
リドルがいる理由は純粋にお見舞……な訳がなく、弱っている私を笑いに来た。
もうね、キャラが違う。
分厚い皮を今日ばかりは嬉々として捨てたみたい。
リドルくん……普段はそんな笑い方しないよね?
私が弱っているのがそんな嬉しいか。
「態々こんな所まで何しに来たの? 暇人なの? 笑いに来たんなら帰……ゲホッ」
「…………っ」
咳に邪魔された。
最後まで言えないのがこんな不愉快だと知らなかったよ。
……リドルくん、声を押し殺して笑って一々、私を刺激しないでくれるかな?
もうね、マジ帰れ。今なら階段から突き落とせる気がするの。
「……誰かさんは確か僕が風邪引いたら看病してくれるんじゃないの?」
ニィッと口角を上げ挑発するように見下ろしてくるリドルを私は苦々しく舌打ちをした。
「ごめんねー。どっかの図に乗ってる奴と違って、私柔だったみたい?」
「それはそれは……最低な奴がいるもんだね」
お前のことだよ。
私はまた舌打ちをするけど、リドルはどこ吹く風で涼やかにニコニコと笑うだけだった。
「……はぁ。どこで間違えたかなぁ」
「自業自得でしょ。のことだから服を濡れたままにしてたんじゃないの?」
「!」
バレてる。
疑問系だったが、ほぼ断言。
驚いて目を丸くしたが、そんな私の様子にリドルはため息をついた。
*
やっとリドルを帰ってホッと一息ついていると、我らがスリザリンの寮監が見舞いに来た。
魔法薬学の最中に倒れたからかな。
そしてそのときにさらり、と聞き流せない言葉があった。
「Mr.リドルには感謝するんだよ?」
「は?」
「君が倒れたときに真っ先に君の下に駆け寄って、医務室まで君のことを運んだのも彼でね……」
他にも何か言っていたような気がするけど、私の思考回路はそこでショートして、スラグホーン教授が帰った後も私はポカンと口を開けたまま教授がいた場所を見つめていた。
言わなきゃ解らないこともある。
感謝するかは別だけど。
「……まぁ、階段から突き落とすのは止めようかな」
*
2014.03.17