思い出話4
「……ってことで、たまにで良いんで店の掃除をして下さい」
「は?」
今日も今日とて本を読みに来たリドルさん。
此処、本屋じゃないんだけどな。
「えと、明日からちょっと学生してきまーす」
「……ああ。もうそんな時期」
意味が分からないという風に私を見ていたリドルさんだったが、軽く理由を話したらあっさり通じた。
「黙って行っても良かったんですが、お得意様のリドルさんを閉め出しにするのもマズい気がして。……それはそれで面白そうなんですけどね〜…………っ?!」
その姿を想像してケラケラ笑っていたら杖で思いっきり殴られた。
使い方間違えてるよね?ねぇ?
どこかスッキリした様子のリドルさんを、涙目になりながら憎々し気に睨み付けると鼻で笑われ、それがまぁ、余計に腹立つっていうね。
「……いつか傷害で訴えてやるから覚悟して下さいよ? 手始めに慰謝料を請求するんで、餞別下さい」
「素直に欲しいって言えば?」
呆れたように少し待ってろ、と店から出て行った。
数時間後、忘れた頃に帰ってきたリドルは私に包装された小さな箱を投げ渡した。
まさか本当にくれると思わなくて、正直、明日は槍が降るのかなって心配しながら封を開けてみると。
「…………え」
中を見ると高そうな緑の石が付いたシンプルなピアス。ちょっ、貰っていいのコレ。
「着けないの?」
躊躇するもん子どもに渡さないで欲しいです。
でも、ご厚意を無下にするのもなぁ……。
「ありがとうございます! でも、リドルさん? 私穴開いてないです」
「貸せ。開けてあげる」
「え……やだ、こわい」
だ、だって!すごい意地悪そうな笑み浮かべてるんだよ?極悪人面だよ?普段より活き活きしてるんだよ?
「おいで?」
「……はい」
怪しい笑みを浮かべて手招きをする彼に半泣きで近寄る。
抵抗なんて始めからしないよ。
人生諦めが肝心って誰かが言ってたし……はぁ。
*
「勇者だと思いませんか?」
「出てけ」
聞こえなーい。
私は現在、我が君の部屋にいる。面白そうなことを耳にしたのだ。
我が君は過去にカツアゲされたらしい、とかいうそんな噂を。
「我が君をカツアゲする人なんてそういないですよね。
で、何を贈ったんですか?」
「…………」
突然部屋に入った私をまたか、と風に視線を向けていた我が君だったが話が進むにつれて段々、馬鹿にしたような、可哀想なモノを見る目を向けてくる始末。
「クソガキにピアスを」
「クソって……」
「お前が期待している様な事はないと思うが?」
「ええ、残念なくらいです」
「……なら」
「分かりましたよー」
我が君から退去を命じられ、大人しく云うこと聞くことにした。
ふと、先程の言葉を思い返しドアの前で歩みを止めた。
「我が君、一つ質問です」
「ん?」
「本当にカツアゲされたんですか?」
素朴な疑問。
すると我が君がふっ、と笑い。
「私が今も昔もそんなこと許すとでも?」
ですよねー。知ってた。
「じゃあ、なんで?」
「。勘違いしてるようだが、私はそのクソガキに餞別を贈ってやっただけだ」
また出たクソガキ。それに餞別?
そういえば昔、私も似たようなやり取りをしたことがあったな。
何時だっけ?
えと、確かホグワーツの入学するとき……あれ?
私はあの時に我が君から何を貰ったっけ?
「…………あ」
よく思い出した結果が宜しくなかった。
血液がサァー、と下がっていき、暑くないのに寒いくらいなのに背中に汗がダラダラと流れ落ちていく。
間違いじゃなければ……いっそ間違いだったら良いのに。
あの馬鹿にしたような視線の意味が今なら解るけど解りたくない。
「わ、我が君?」
私の挙動不審気味な態度に気付いているだろうに。
その理由も知っている筈なのに怪しげ笑みを浮かべるだけで、何も言わない辺りが相変わらず性格悪いと思う。
「……も、もしかして、そのクソガキって私だったりしませんよね?」
「それ以外に誰が?」
「…………」
終わった。
疑問なんて持たずにさっさと帰れば良かったなんて後悔しても、もう遅い。
さて、我が君にピアスの行方を聞かれるまで、あと何秒?
*
貰ったピアスは大事に着けてます。昔過ぎて忘れてただけ。
2014.02.23