思い出話2
あの日を境に不思議な男性はちょくちょく来店してくれるようになった。
意味がわからない。
もうさ、不思議じゃなくて変。
だって未だに占ってないし。
良くて気が向いたら当たらないことを告げるくらい。
仕舞いには本持参したり、たまにだけど知り合いまで連れてくるっていうね。
一番、意味が分からないのは毎回料金を払って帰ってくこと。
断って受け取らないと、店のどこかに隠されてる。面倒なんで手の込んだことしないで下さい。
そんな男性にもうさ、ただ苦笑ですよ。
「……また来たんですかー。自分でいうのもなんですが、まともなこと一度だってしてないし、するつもりもないですけど。来るだけ無駄だと思うんですよ」
「にそんな期待していない」
愛想の仮面はぶん投げたみたいで、初対面以降、無愛想に変わった男性。
「はぁ」
ホント意味わかんない。
まぁ、きっと暇人なんですね。
「可哀想に」
男性は「面倒」と言ってローブを深く被るのを止めるようになった。なので丸見えなのだが。
ローブの下ね−−……。
ヤバいくらい綺麗だった。
「女子ですか?」って聞いたらぶん殴られたのは記憶に新しい。
弁解したい。ホントに綺麗だったんだって!
艶のある黒い髪。
極め細かい白い肌。
深紅の瞳。
特にその瞳なんて魅入られたのか、何回見ても飽きないくらい綺麗で好きだった。
あーあ、男にしとくのが勿体ない。
そして暇人にしとくのが、ホントに勿体ない。
「お前、失礼なこと考えているだろ?」
「やだなぁ、あなたの気のせいですよ」
……あれ? ふと気が付いた。
私、男性のこと【あなた】しか呼んでない。ってか、知らねぇ。別に不便じゃないけど……えーと、知り合いの人はなんて呼んでたっけ…………あっ。
「我が君、だ」
「……」
「違いました?」
男性がなんともいえない表情を浮かべ私を見ていたので、すこーしだけ不安になる。
「……トム・リドル」
「ダウト」
「は?」
「なんか違う気します」
「………………はぁ、内緒だ」
なんで溜め息!?
しかもまさかの内緒って!
微妙な意地悪しないで下さいよー。
*
「そういえばお前、人の顔ばっかり見てたな」
「子供でしたからね〜。我が君、顔は綺麗でしたから顔は」
「強調するな」
「アブさんが言ってました。学生時代はすごいモテてたって。プレゼント多かったんですか?」
「全て灰にした」
「は?」
なんつーことしてんだ。
可哀想な7年分のお菓子たち。
「それより。お前は今でも私の顔にしか興味はないのか?」
ソッ、と我が君に腕を引かれる。それに抵抗しないで胸にもたれ掛かるように倒れこむ。
「……そうですね。変わらないかもしれないです。私は昔から――……」
その深紅の瞳が好きですから。
*
2014.01.26