思い出話1
思い出話1
ある明け方。
今日も今日とて働きたくなけど働かないと生活出来ないし。
世知辛い世の中ですね、と物思いに耽っていたら入り口のベルが鳴った。
「いらっしゃいませ?」
「え?」
反射的に挨拶したけど、ご来店したお客さんは不思議な人でした。
「君が占うの? 随分若いお嬢さんだね」
フードを深く被った長身の男性。
私の姿を見て一瞬戸惑った様な感じだったが、すぐに愛想の良く話し掛けてくれた。
声だけの判断だけど多分、年若い?
うーん。どこが不思議かって言われたら悩む。
マントを深く被っている時点でどうかとってなるけど、それはダイアゴン横丁での話でここ<mクターン横丁なら問題なし。
逆に普通ってか被ってないと危ない。
ちびっこ(私、十歳)に優しいのは珍しくて、有り難いけどね。
「よく言われます。お兄さんみたいな人がこんな店に来るのも珍しいですね〜」
「そう?」
「はい、とても」
お客さんの大体は中途半端なお金持ちの中年ばっかりだからね。
横暴な無駄に偉そうな奴が多いんだよね、マジで。
「あ、ちなみに占いならしませんよ」
「は?」
「面倒臭いの嫌いなんです。自分の人生なんですから自分でどうにかして下さい」
これを言うと大体の客がキレるんだよね。文句は料金取られてからにして欲しいよ。
「……君、本当に占い師?」
「一応」
「仕事する気ある?」
「ないですね。占い師を生業にしたことを本気で後悔中ですよ」
ニコーッと男性に笑み向けたら、呆れたように「……阿呆でしょ」って呟かれた。
*
「我が君、時代の変化って寂しいもんですね」
「なにを急に」
「あんな愛想の良かった男性が今じゃこれですよ? 如何なものかと」
我が君からくる訝しげな視線をひしひしと感じながら、それをあえて無視して私は続けた。
「しかも若くないし。若作りは許され範囲じゃないと、詐欺ですよ!」
「」
おっと夢中になり過ぎた。
ってか低い声で睨みつけてこないで下さい。フツーに恐いですって。
「……お前は変わらないな。ああ、でも昔の方がマシだったかもしれないな」
「えへ」
「褒めてない」
「まぁまぁ、照れなくても。分かってますって!」
「……はぁ、で?」
「少し昔を振り返ってみたかったんです」
我が君との始まりの物語を。
*
2014.01.25